島根有機農業協会ブログ
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金子信博先生「火遊びはどこまで許されるのか?」参加報告
2018年11月12日
☆11月12日(金曜日)18時30分から島根大学にて
島根大学里山管理研究会主催の金子信博先生の講演会「火遊びはどこまで許されるのか?」に参加しました。
金子先生は、土壌生態学の専門(草分け的存在)で、森林や農地の土壌の生態について研究されており、近年では福島県の森林の放射性セシウム汚染の除染について効率的な方法を編み出されました。1990年から1998年まで、島根大学生物資源科学部におられ、その後横浜国立大学、そして今年から福島大学に移られました。
ところで、私はかつて神奈川県に在住時に、鎌倉市内の谷戸で里山保全の活動に関わり、田んぼや炭焼き、小中学生の体験受け入れ、子育て、生態系保全等などに毎日のように取り組んでいた時期があります。実は、その際に、横浜国立大学におられた金子先生も参加され、一緒に汗を流し作業したことがありました。その後、私は福島県に移住したのですが、その際、不耕起の自然農の畑をやっており、金子先生が私の畑にお越しいただき、土壌を調査してくださったこともありました。東日本大震災の前のことだったと思います。
そんな縁もあり、ぜひお話を聞かなければ! と思い、やや遠方でありましたが、出席しました。
島根大学里山管理研究会は、学生と生物資源学部名誉教授の小池先生らが、尾原ダム周辺の竹林を利用し焼畑を実践されており、私もこの秋に1度参加しておりました。今回の講演会「火遊びはどこまで許されるのか?」はそこからきています。火遊びというタイトルですが、焼畑による土壌と生態系の変化についての研究結果をもとにした、理論的なお話でした。
☆内容
導入では、生物の多様性という側面から見て、農地はかく乱され過ぎており草が多く耕起が少ないほど生き物が豊かであること。森林も、人為的に失われることで、土壌の豊かさが失われ、全世界的に生物多様性が失われている傾向にあることを示されました。
マダガスカルの例では、かつては焼畑をして数年おきに移動する生活がなされ、生態系が保たれていたものが、畑の常畑化、鉱山開発などにより土壌流出が激しく、ダメージが非常に大きくなっていることを挙げられました。
実際に土地が焼かれるとどうなるのか。焼畑により土壌の有機態窒息が無機態窒素に変わることで、後に作付けされた作物がよく生育することなどを、1990年ころから仁多町で行われた焼畑(赤カブの栽培)での研究結果を元に示されました。(火入れ後の硝酸態窒素の量は尾根と谷で大きく異なり、谷に集中。地中深くにも残るが、地下水で流れてしまう。)
一方、土壌の生物はどうなるか? 当然のことながらいなくなる。ミミズやササラダニを例にあげられ、年々回復してくることが示されている。
北上山地の研究では、土壌の炭の堆積量から、非常に長い年月焼畑が繰り返されていたこと、そして、薪炭林とは場所を分け、焼く範囲が決まっていたことが示されました。火入れ後数年間畑として利用し、20~30年放置したのち再利用したことが分かっているそうだ。
まとめとしては、焼畑で物質の収支を維持するには20~30年かかる。森林を火入れすることは、煙による人体への影響、山火事、土壌の劣化などの負の側面があるが、森林管理のオプションになる、おいしい野菜ができる、年々場所を移動して行うことで全体としては多様な生態系ができるといったプラスの面もある。20~30年スパンで繰り返すなら「火遊びは許されるのでは」という結論だったと思われます。
参加者は興味ある方が多かったようで農業経営者や歴史を研究される方、アウトローな人(??)などから多くの質問が飛び交いました。
質問>放射能汚染の問題をどう捉えているか?
回答>福島では田畑の除染は進み、農作物は問題ない。山の除染はまったく進んでおらず、今後の課題。山菜やキノコなどは未だに規制値を越えている。原木しいたけの原木も使えないため、萌芽更新が期待できなくなってしまっている。木工品など別の方策により萌芽更新可能な山を目指したい。カリウム施肥がセシウムの吸収を抑制しているが、施肥をやめたらどうなるのかは、モニタリングする必要がある。
質問>焼畑による農業として将来性はあるのか? あるいは、レクリエーションの範囲なのか?
回答>田んぼの日なたを維持するという目的として焼くことはあると思うが、焼くことがメジャーにはならない。焼畑よりも暖房として木を利用するほうが現実的では?
質問>歴史的に焼畑をやっていたところといなかったところの違いは? 今から島根でやるとしたら適した場所そうでない場所があるか?
回答>日本のどこでもやっていた。簡単だから。尾根と谷では状況が異なるがやればできる。延焼を起こさないなど、ノウハウは必要である。
また、里山管理研究会の焼畑についてもいろいろと質問がありました。
終了後の懇親会にも参加させていただきました。久しぶりにお会いして、説明がとても明快でわかりやすい。そして実践されていることも、実物を見ても若々しい。今の地に住み3年目。荒れた里山環境を復活させ、生き物のあふれ、子どもが遊べる楽しい場所にしたいという思いはあるものの、滞ってもやもやした気持ちでいましたが、先生から元気をいただき、鎌倉や福島のことも思い出し、再びやるぞ! という思いになれました。
2018年11月11日記す(F)